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私たちの生活を支える微生物:知られざるカビとキノコの違い

■カビとキノコ、あなたはどっち派?
カビマニア(NBRCにはよくいる)でなければ、多くの方はキノコの方に良いイメージを持っているのではないでしょうか。カビはお風呂場やエアコンに生えたり、ミカンやお餅などの食品を腐らせたりする厄介者というイメージがある一方で、キノコは重要な食材であるだけでなく、その愛らしい形から某有名ゲームのキャラクターやアイテムのモチーフとして使用され、生活を彩る存在として人気があります。

■カビとキノコ、分類学的には同じ生き物?
このように一般的なイメージは大きく異なりますが、キノコはカビの仲間だということをご存じですか。学術的には、カビとキノコは共に「菌類」に属しています。では、カビとキノコの違いとは何でしょうか?ざっくり言うと、子実体(しじつたい)と呼ばれるいわゆる「きのこ」を作るか、作らないかの「見た目」の違いだけです。
• カビ:糸状の構造をした菌糸で生活することから「糸状菌」とも呼ばれます。菌糸が少ないうちは肉眼ではほとんど見ることができないですが、菌糸が成長して広がるとお風呂場の黒いシミのように肉眼で見ることができるようになります。
• キノコ:菌糸が集まってできた子実体と呼ばれる大型の構造を作ります。このため大型菌類と呼ばれます。面白いことに、キノコを培地(微生物が成育するために必要な栄養を寒天で固めたもの)で培養すると糸状の構造をしたカビの姿になります。

(左)キノコの姿をしたウシグソヒトヨタケ      (右)カビの姿をしたウシグソヒトヨタケ

【ウシグソヒトヨタケのきのこ(子実体)形成(動画)】
https://youtu.be/lwzhzFBi2-4?list=PLWxWKUOj3xALDWKbO5dZKbDrt3ZLO7DWn


■カビとキノコ、どちらも私たちのくらしに欠かせないもの
カビには「悪いイメージ」がつきまといますが、実は私たちの生活にとって非常に重要な存在です。例えばカビは、食品や医薬品の分野で大活躍しています。味噌や醤油などの栄養豊富な発酵食品は、カビの力なしには生まれません。また、カビから得られる成分は医薬品の開発にも寄与しています。特にペニシリンは青カビから発見された抗生物質で、多くの感染症治療に革命をもたらしました。

さらに、実は農業の分野でも広く活用されていることをご存知でしょうか。よく知られた話では、植物と共生するアーバスキュラー菌根菌は、共生している植物に土壌の養分を供給するため、環境負荷の低いバイオ肥料として使用されています。
また、Akanthomyces muscarium などのカビは、農業で深刻な問題を引き起こす植物病原菌に寄生し、その活動を抑制することから、生物農薬としての活用が検討されています。このように、カビは環境に優しい循環型農業の実現に貢献することが期待されています。

植物病原菌(カビ)に寄生し、病気を防ぐカビ


一方、キノコは私たちの食卓には欠かせないことから、食材のイメージが強いのではないでしょうか。近年ではさらに、循環型社会の実現に向けて「Mycotech(マイコテック)」と呼ばれるキノコ・カビを利用した代替肉(マイコプロテイン)、革の代替となる素材、生分解性の梱包材や建材(レンガ)などの開発が期待されています。
以上のように、カビやキノコは多くの可能性を秘めた微生物であると言えます。
 前回の「菌未来:キノコが拓く新たなバイオ産業革命」においても、Mycotechについて紹介しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

■さいごに
菌類の魅力を伝えたいあまり長々と語ってしまいましたが、つまり、カビとキノコは印象が大きく異なるものの、実際には「見た目」が違うだけでどちらも同じ菌類に分類され、私たちのくらしに欠かせない素晴らしい微生物であるということです。ぜひこの機会に、キノコだけでなく、カビも好きになってください!
NBRCは、カビ・キノコを含め、多種多様な微生物を9万株以上保有し、産業界や大学に提供することで、日本の産業を支えています。まだまだ謎の多いカビとキノコの可能性を共に開拓し、彼らの力を活用していきましょう!