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「室内の安全」から人の健康を守る。NITE北陸支所が取り組む室内環境学とは?


NITE広報企画室です。

今回の記事では、北陸支所で行っている業務を紹介いたします。

人は1日24時間のうち、多くの時間を室内で過ごしています。そのため、室内環境を整えることはきわめて大切です。

 NITEの北陸支所では、室内の環境を科学的に分析する「室内環境学」を強みにしています。

どうして「室内環境学」が重要なのか? 

なぜ、北陸支所では「室内環境学」に取り組んでいるのか? 

北陸支所の樋口支所長および篠﨑専門官にインタビューしました。

室内環境学とはどんなものですか?  


 室内環境学とは、人の生活にとって重要な室内環境に関わる諸問題を、科学的に研究する分野です。

 現代人は、人生のほとんどを部屋の中で過ごしています。『人が1日のうち、自宅や会社などの室内で過ごす時間は約22時間』、というデータもあります(※1)。 室内の化学物質の濃度にどのような変化があるのか、その化学物質に人が暴露された(さらされた)場合に健康へどのような影響があるのか、最終的にその影響をなくすために汚染物質をどのように排除するのかといったことを、北陸支所では調査しています。

(※1)
出典:生活時間調査による屋内滞在時間量と活動量:室内空気汚染物質に対する曝露量評価に関する基礎的研究その1
著者:塩津弥佳・吉澤晋・池田耕一・野崎淳夫(1998)
日本建築学会計画系論文集,511, p45-52.

どうして室内環境学が重要なのでしょうか?


 
我々が普段の生活で使用している製品は、すべて化学物質が含まれています。その一方で、化学物質の中には量によって人に有害なものもあります。室内に置いてある身近な製品から化学物質が放出され、室内の空気中に含まれる化学物質を人が吸い込むことで、「目がチカチカする」、「頭痛」、「鼻水」、「のどの乾燥・痛み」、「吐き気」、「めまいや吐き気がする」など、様々な症状が出て、体の調子が悪くなるのが「シックハウス症候群」です。 
 
 シックハウス症候群を防ぐためには、室内に放出された化学物質の吸入を防ぐことが必要です。そのためには、原因となる化学物質を特定し、なるべくそのような化学物質が出ない製品を使うことが推奨されます。そこで、室内の環境を科学的に分析する「室内環境学」が求められています。
  

 ――「シックハウス症候群」について、もう少し詳しく教えて下さい
 
「シックハウス症候群」は、特に新築の家やリフォームしたばかりの家において、建材等から発生する化学物質などによる室内空気の汚染が原因と言われています。近年では、省エネ対策等により住宅の高気密化・高断熱化などが進むに従って、「すきま風」もなくなり、部屋の空気に化学物質がたまりやすくなっています。 

 シックハウス症候群を引き起こす原因の一つとして、VOC(揮発性有機化合物)と呼ばれる化学物質(ホルムアルデヒドやアセトン、トルエンなど)が原因の一つとしてあげられます。これらVOC等は、建材、接着剤、塗料などの建築材料や、棚やテーブル、ソファーなどの家具から発生することがあります。また、VOCはプラスチック製品にも含まれることがありますので、プラスチックが含まれる家電製品なども発生源になります。
 

シックハウス

出典:国土交通省「快適で健康的な住宅でくらすために」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/sickhouse.files/sickhouse_2.pdf

「室内環境学」に取り組む北陸支所の業務内容を教えてください。


 NITEでは、経済産業省で取り組む製品安全行政の一環として、製品事故の情報を収集し、その事故原因を調査しています。 

 下の表にある通り、2000年から2015年にNITEに通知があった「製品からのVOC等の放散による事故(吸入事故と呼んでいます)」は99件ありました。
北陸支所では、家具や家電などの製品から放散したVOC等の吸入による事故(人の健康被害)が疑われる場合に、製品から発生するVOC等の量や種類を計測し、その製品が置かれた室内に人が居住した際の化学物質への暴露を推定することで、原因の特定を行っています。

2000年から2015年にNITEに通知のあった製品別 VOC 等放散事故件数

製品事故発生後、事故情報の収集と原因究明までどのような流れになっているのでしょうか?

 NITEでは、消費者が日常的に使用する家電製品や家具などを対象に、くらしの中で起こった事故情報を収集しています。

 下の図のとおり、事故の被害の程度によって、事故通知の流れが異なります。事故情報は、消費者から、製造・輸入事業者、消費生活センター、消防などに連絡が入ります。

 NITEは、消費者生活センターや消防などの地方公共団体や製造・輸入事業者などからの通知書、報告書、聞き取りから事故製品の使用状況(事故品の使用開始時期及び健康被害が顕在化した時期 、1 日当たりの製品使用時間など)や健康被害の具体的な症状などを情報収集し、事故当時の濃度を推定しています。推定した濃度と、厚生労働省の指針値と比較し事故の原因を究明しています。

事故情報収集から原因究明の流れ

製品のVOC等の測定はどのように行っていますか?

 厚生労働省では、シックハウス対策を進めるために、室内空気中の化学物質(13物質)について室内濃度指針値を策定しています。
 
 北陸支所では、13物質のうち、家具や家電製品等の生活用製品が発生源と考えられる8物質について測定・分析を行っています。家具や家電からのVOC等を測定する際には、「チャンバー」という装置を用います。 

 北陸支所では、21立方メートルの容量がある大形のチャンバーを保有しています。この大きさのチャンバーは、日本に3台ほどしかありません。このチャンバーでは、ベッドやソファーなど大型家具を測定しています。

大型チャンバー
大形チャンバーシステムの外観
大形チャンバーシステムの構成図
試験のため、大形チャンバーにソファを入れた様子


  空気中には微量なVOC等が既に含まれているおそれがあります。そこで、試験体(家具や家電製品)のみから発生するVOC等の量を正確に測定するために、チャンバーという装置に試験体を入れて測定します。チャンバー内には、VOC等を含まない清浄な空気が流れており、試験体から発生したVOC等を捕集することができます。捕集したVOC等は、測定する成分によりGC-MS(ガスクロマトグラフ-質量分析計)またはHPLC(高速液体クロマトグラフ)という装置を使い分けて、分析しています。

GC-MS(ガスクロマトグラフ-質量分析計)
HPLC(高速液体クロマトグラフ)

 北陸支所には、大形チャンバー以外にも、1立方メートルの小形チャンバー、さらに小さい20リットルのチャンバーの計3種類があります。分析する製品の大きさや種類により、チャンバーを使い分けており、1立方メートルのチャンバーでは主に家電製品を測定し、20リットルのチャンバーではカーペットやカーテンなどを測定しています。

※北陸支所で行っているVOCの分析、測定などは、経済産業省や事業者からの依頼により実施しています(残念ながら、個人の方からの依頼は請け負っておりません)。

我々が化学物質(VOC等)と上手に付き合うにはどうしたらよいでしょうか?

以下に、私たちが日頃からできる化学物質対策をお知らせします。

・こまめな換気する
・換気設備はフィルターの清掃など定期的に維持管理をする
・新築、リフォーム当初は、室内の化学物質の放散が多いので、しばらく
 の間は、換気や通風を十分行う
・新しい家具を購入する時は、例えば”国産家具マーク表示”のあるものを
 選択する。
 ーメーカー、製品によっては、シックハウス対策をしているなどの表示
 マークをつけているものがあります。家具を購入する時の参考にしてく
 ださい。

 シックハウス症候群などは、化学物質だけでなく、高湿度環境(ダンプネス)、カビ・ダニなども原因であることが明らかにされつつあります。また、ストレスを多く抱える人が症状を訴えやすいともいわれているので、こまめに換気や掃除、気分転換をすることも大切です。





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