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食酢を作る「酢酸菌」はお好きですか?

NITEバイオテクノロジーセンターの日高です。

身近な微生物「酢酸菌」。「知ってるよ」という方も多いでしょう。
でも、意外な一面も持っているのですよ。
今回は、酢酸菌について、その働きからちょっと研究者っぽい話までご紹介します。

酢を作る酢酸菌はいいヤツ?

酢酸菌を簡単に説明すると、アセトバクテリアセア科に属しエタノールから酢酸を生成(酢酸発酵)する微生物です。

日々の料理や保存食などに使う食酢の主成分は酢酸ですから、酢酸菌は食酢を作るための主役ですね。

酢酸菌の顕微鏡写真を見ると…… 

酢酸菌は、食酢を作る以外にも活躍しています。
たとえばナタデココは、ココナツ果汁から酢酸菌がバクテリアセルロースを作ったものです。
酢酸菌は、このような食品の製造から工業的な利用まで、実はいろいろな方法で活用されています。

でも酢酸菌は、ちょっと迷惑な場合があります。

たとえば、ビールやワインなどの製造工程では、風味を損なう汚染菌として嫌われています。
人間にとっては、都合の良い面も、悪い面もあるのですね。


日本人と酢の出会いは4世紀頃

私たちの生活に身近な食酢。最近は、海外のものも含め、さまざまな食酢を入手できるようになりました。

料理によって使い分けたり、水や炭酸で割って飲んだり、食材を漬け込んだり…… 
中にはお掃除に使っている方もいるかもしれません。

では、日本人はいつから酢を使うようになったのでしょう。

最初の醸造酢は紀元前5000年頃に作られたという記録があるそうです。
紀元前5000年とは、日本では縄文時代!
まだ稲作も始めていない頃です。

日本に酢の醸造法が伝わったのは、4世紀頃、中国大陸からと言われています。
その後日本中に広がり、私たちの食文化に欠かせないものとなりました。
日本全国各地には、独自の発展を遂げたさまざまな酢があります。

その醸造工程では、それぞれ固有の酢酸菌が働いている…… と考えられます。


酢酸菌は優秀

ここで、少し専門的な話を。

酢酸菌は、発酵する能力が高いという特徴があります。
低pH環境下の酢酸発酵は、
アセトバクター属には濃度5~10%まで、
コマガタエバクター属には濃度10~20%まで
酢酸を産生する種がいます。

また酢酸菌が産生するバクテリアセルロースには、今後の発展が期待されているものもあります。
セルロースは、地球上で最も豊富に存在する高分子で、ほとんどは植物によって作られます。
それに対してバクテリアセルロースとは、細菌が合成するセルロースのことです。

コマガタエバクター属の一部が産生するバクテリアセルロースは、植物由来のセルロースとは性質が異なるため、新たな素材開発の可能性があるのです。

酢酸菌って、なかなか優秀ですね。


DBRPで少しだけ研究者の気分


「どんな酢酸菌がいるのか知りたくなった」
など、興味がフツフツと湧き上がってきた方は、
NITEが公開しているDBRP(生物資源データプラットフォーム)で検索してみてください。
菌株、画像、文献など、いろいろな情報にアクセスできます。

https://www.nite.go.jp/nbrc/dbrp/top

たとえば「酢酸菌」で検索すると、
「Gluconacetobacter 属細菌のセルロース膜産生能」というデータが出てきます。
これは、先ほど「発展が期待されている」と紹介したバクテリアセルロースを産生する能力の試験結果です。
少しだけ研究者の気分を味わえますよ。