いいヤツ?いやなヤツ!? ニキビの原因「アクネ菌」
NITEバイオテクノロジーセンターの浜田です。
今回は、皆様も名前だけは知っているかもしれない、ニキビの原因菌として有名な「アクネ菌」を紹介します。
アクネ菌はただの悪者じゃない
これは、「アクネ菌」を電子顕微鏡で撮影した写真です。
「アクネ菌」と言うと、ニキビの原因となる“悪者”として有名ですよね。
ニキビができやすい、ニキビで悩んでいた…… という方には、確かにそうでしょう。
でも、少しアクネ菌を弁護させてください。
アクネ菌はヒトに普通にいる「常在菌」の一種。
つまり、ニキビで悩んだ経験のない方にもいるのです。
しかも、アクネ菌は肌を弱酸性に保ち、他の病原菌の侵入や増殖を抑えてくれる働きがあります。
そう! 実はなくてはならない“お役立ち菌”なのです。
どうしてニキビができる?
お役立ち菌なのに、なぜニキビの原因と言われてしまうのでしょう。
アクネ菌は酸素を嫌う性質があり、栄養源は皮脂。
そのため、毛穴の中の脂腺の奥にひっそり隠れつつ、人知れず良い仕事をしています。
ところが、汚れや皮脂で毛穴が詰まってしまうとどうなるでしょう。
毛穴の奥は、酸素がなくて栄養となる皮脂がたーくさんある場所になります。
アクネ菌にとってはバラダイスです!!
パラダイスにいるアクネ菌は、どんどん栄養を取って、どんどん増殖してしまいます。
この増殖の過程で、いろいろな炎症誘発物質を生み出すので、毛を作り出す毛包のあたりで炎症が起こります。
これが、ニキビの正体です。
お肌を守ってくれているかも
紫外線を浴びすぎるとお肌に良くない…… ということも今では良く知られるようになりました。
近年の研究では、アクネ菌が紫外線対策にも役立っているかもしれないことが分かってきました。
アクネ菌は、抗酸化酵素を分泌しています。
抗酸化酵素は、紫外線などの酸化ストレスによって皮膚細胞が傷つくのを抑える働きがあります(Allhorn et al. (2016). Sci. Rep., 6, 36412)。
つまりアクネ菌は、皮膚を紫外線からも守っている可能性があるということです。
アクネ菌、なかなかの働き者ですね。
悪者のイメージも、少し変わってきたのではないでしょうか。
お肌の大敵と思われがちなアクネ菌ですが、ヒトの皮膚を守ってくれる大切なパートナーの一面もあるのです。
アクネ菌は、放線菌で桿菌(かんきん)?
アクネ菌についてもっと知りたくなった方のために、少し学術的な話をしますね。
アクネ菌は分類学的には細菌の一種で、「放線菌」の仲間です。
放線菌は、抗生物質の生産で知られています。
形態的には、菌糸状にならない桿菌。
下左のように糸状で枝分かれしているが菌糸、下右のように棒のような形をしているのが桿菌です。
冒頭に写真をお見せしたように、アクネ菌の細胞は確かに棒状ですね。
ちょっとかわいい学名の話
次は名前についてです。
アクネ菌の学名は「キューティバクテリウム・アクネス」と言います。
ちょっとかわいい感じを受けるのは私だけでしょうか。
でも、かつては「プロピオニバクテリウム・アクネス」として知られていました。
「プロピオニバクテリウム属」の菌は、人間の皮膚や動物の腸管、サイレージ、発酵食品などから多く見つかっています。
2016年、デンマークの研究グループが、全ゲノム配列データを用いて詳細な系統解析を行った結果、プロピオニバクテリウム属の一部の種を別の種として独立させることを提唱しました(Scholz and Kilian (2016). Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 67, 4422-4432)。
そのうちの一つが「キューティバクテリウム属」です。
プロピオニバクテリウム属のうち、人間の皮膚に多く生息しているプロピオニバクテリウム・アクネス(アクネ菌)など3種は、キューティバクテリウム属に移行することが提唱されたので、現在アクネ菌は、キューティバクテリウム・アクネスという学名に変更されているのです。
ちなみに、「キューティバクテリウム」は、ラテン語の皮膚「Cutis」に由来するそうです。
なるほど!
ここまで知っていれば、あなたもちょっとしたアクネ菌博士です。
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