変幻自在なカビの世界
~Aspergillus属、Penicillium属菌の多様なコロニー形態~
一般的にカビと称される糸状菌は、培養条件によって多様なコロニーを形成します。
培地、温度、菌体密度などの違いが、色、形、質感に影響を与えるため、同じ菌株でも見た目が異なるコロニーが現れることがあります。
今回は、よくお問い合わせを頂くAspergillus属、Penicillium属の菌株のコロニーの違いについて、いくつかの例をご紹介いたします。
【例1】有色のコロニーの中に白いコロニーが出現・・・!?
Aspergillus属やPenicillium属菌は、黄色や黒、赤、青、緑といった色の胞子を形成する種が多いのですが、時折、白色のコロニーが現れることがあります。
これは、色の付いた胞子を形成せずに、菌糸のみで生育している時に見られる現象です。継代を繰り返すことで、胞子形成能が低下することがあり、こうした変化が原因となります。
また、コロニーごとに胞子の色のつき方や、胞子と白色の菌糸の割合が異なることで、濃淡による色調の違いが見られることもあります。
【例2】複数の色や形態のコロニーが出現・・・!?
菌種によっては性質上、複数の色や形態のコロニーを形成することがあります。
例えば、Penicillium islandicum NBRC 7601は緑やオレンジなど様々な色のコロニーを形成します。
この種はアントラキノン系やスカイリン系の色素を産生(1) することが知られており、多彩な色を示しますが、見た目がこれだけ異なっても、同じ菌株です。
一方、Aspergillus tonophilus NBRC 8157Tは黄色や緑のコロニーを形成しますが、こちらは胞子の種類※に起因します。
黄色は有性生殖によって生じる閉子嚢殻(子嚢胞子の包まれた袋状の壁)を旺盛に形成しているコロニーで、緑色は無性生殖によって生じる分生子を旺盛に形成しているコロニーになります。
そのため、これだけ異なった見た目ではありますが、同じ菌株です。
NBRCでは、品質管理の過程で確認された各菌株のコロニーの画像情報を、DBRP(生物資源データプラットフォーム)の各菌株情報ページに掲載しております。ぜひご活用ください。
◆コロニー形状に関するトラブルシューティング◆
○ 同一の菌株なのか異なる菌株なのか判断がつかない
見た目の異なるコロニーをそれぞれ柄付き針などで釣菌して培養し、Aspergillus属菌についてはカルモジュリン遺伝子、Penicillium属菌についてはカルモジュリンやβ-チューブリン遺伝子など、その菌種を同定できる遺伝子塩基配列の取得を行い、各コロニーの配列が一致するか確認することをおすすめいたします。
○ 胞子形成能を維持したい
できる限り継代培養を避けることをおすすめします。
胞子形成の旺盛な有色のコロニーから複数の凍結保存標品を作製します。
復元に使用した標品は使い切り、再凍結して保存することは避けてください。
【一般的な糸状菌の凍結保存方法】
【復元方法】
【継代数の数え方とシードロットシステム】
○ 胞子形成を旺盛にしたい(なるべく白いコロニーを少なく培養したい)
胞子形成には通気性をよくすることが重要であるため、Aspergillus属やPenicillium属菌を平板培地(シャーレ)で培養する場合は、植菌後のシャーレにパラフィルム等は巻かず培養してください。
【参考】
※ 菌類では分類群及び生殖様式によって胞子の名称が異なります。Aspergillus属、Penicillium属菌が属する子嚢菌門では有性生殖で生じた胞子は子嚢胞子と呼ばれ、無性生殖で生じた胞子は分生子と呼ばれます。
【文献】
(1) Oh et al. (2008). Plant Pathol. J. 24, 469-473.
DOI: 10.5423/PPJ.2008.24.4.469